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あとがき 


   

 初めてシンガポールを訪れた1971年3月のことです。
当時、完成したばかりの ジュロン・バードパーク を見て、驚きました。
そこは、鳥を新しい方法で飼育している鳥専門の動物園でした。
地形を巧く使って広大な地域を網で囲って、自然の環境の超巨大な鳥かごの中がジュロン・バードパークだったのです。

 自由に羽ばたける彼らはじつに活き活きとしていて、羽が艶々していてとても美しくしかったのを今でも覚えています。
 先進的な飼育方法に衝撃を受け、国の面積がとても小さくて土地を有効活用しなければならないシンガホールが、 壮大な土地を鳥のために使うという考え方と実行力に敬服し、羨ましく思ったものです。
それは37年も前、私が22歳のときのことでした。



(↑ 1992年バードパークにて、シンガポールの親友と私のファミリー)

 それから21年後、再び訪れたときには、もっとすごい衝撃を受けました。1992年のことです。
その衝撃は、映像で頭の中に、今でもはっきりと残っています。
 なんと、ペンギンたちがものすごいスピードで巨大な水槽の中を飛んで、いや泳いでいるではありませんか。
 ペンギンが水中では空を飛ぶように羽ばたくことを知りました。泡の航跡を引いて高速で泳ぎ回るペンギンの姿に見入るばかりでした。
 そこは、自然のままに行動することができるように、本能や習性を徹底的に研究して造ったペンギンたちにとって 理想の飼育施設でした。
 南国のジュロン・バードパークのペンギンたちは、 それはもう活き活きして輝き、堂々としているようにさえ見えました。
ペンギンの不恰好に見えていた翼が、水の中でものすごい働きをすることをこのとき知りました。
 この頃の日本の動物園のペンギンたちは、まだ小さな池しかもらえていませんでした。
ペンギンが水の中を猛スピードで泳ぎまわる姿を、日本でも見ることが出来るようになったのは、 それからしばらく後になってからのことです。


 私は、小学生の頃に、兄が十姉妹をとても上手に飼育しているのを憧れて見ていました。
 子育ての上手な真っ白な母親の十姉妹は、とても見事な巣作りを見せてくれました。
このとき私は自分も中に入れるような、大きな鳥小屋を作ってそこで十姉妹を飼って見たいと真剣に夢見ました。
止まり木をチョンチョンと渡っている十姉妹を大きく羽ばたかせて喜ばせたかったのです。
しかし、幼い私には十姉妹を正しく飼育する知識も無く、友達と遊ぶのが忙しくなってそのことはいつの間にか忘れてしまいました。

そんな幼い時の思いを一気に呼び覚ました、ジュロン・バードパークでの2度の衝撃は特別に強烈でした。
 ジュロン・バードパークの鳥やペンギンたちが幸せに、活き活き艶々しているのは、 飼育者がペンギンの生態を研究し尽くして、生態そのままの行動ができる飼育環境を作ってあげているからでした。
その頃日本に、動物の飼育方法について、 「動物それぞれの種が持っている行動を引き出して展示する」ということに取り組んでいる動物園があり、 それを「行動展示」と名付けて学会で発表している小菅正夫さんという動物学者がいらっしゃることなど知る由もありませんでした。



 1994年のことです。
当時小学生だった娘が飼いはじめたジャンガリアンハムスターが病気になったのがきっかけで、 私のハムスター研究が始まりました。
病気の原因は飼育環境のストレスに拠るという予測のもとに、 ストレスを感じさせない飼育方法を模索したのが研究の発端でしたが、
ジュロン・バードパークのような飼育理念でハムスターを活き活きと飼育してみたいという密かな思いがありました。
ハムスターの行動・習性の観察は、試行錯誤の末に試みた放し飼いのときに、とても沢山の成果を得ることができました。

○ ハムスターには地上の生活行動と地下の生活行動の、全く異なった二つの行動があること。
○ 自然界で行う寝室・貯蔵室・トイレ室作りをペットのハムスターも行なうこと。
○ しかも地下の生活行動がハムスターにとって極めて重要であること。
○ 縄張り主張のためのマーキング行動があること。
などです。


 

 2000年頃に、ジュロン・バードパークの飼育理念に負けないハムスターの飼育環境で飼育することに成功しました。
それは、限られた飼育スペースでもハムスターがもともと持っている習性と本能による行動を十分に引き出すことが出来て、
しかも、その行動をいつでも観察することが出来る『透明な観察板』の機能を持った『地下型の巣箱』を使用する飼育方法です。

 ハムスターを『地下型の巣箱』で楽しく観察をしながら健康に飼育するという考え方は、 どの飼育書にも無いし、いろいろな文献を調べても何処にも類似のものが無かったので、 その成果を2002年6月に登録したところ、公的な機関が、私が独自に考えたものであることを認めてくれました。
2004年12月のことです。



 その頃、旭山動物園が脚光を浴びるようになり、
旭山動物園の飼育方針と私がハムスターの飼育に求めているものに多くの共通点があることに気がつきました。
 動物を飼育することに対する小菅正夫園長(当時)の方針が、飼育される動物達にとって、正しく、重要で、しかも絶対に必要なことであることがすぐに理解できたのは、 ハムスターを研究した成果があったからです。

 著名な動物学者である小菅正夫園長のホームページや著書で勉強させていただいたおかげで、
それまで漠然かつ雑然としていた私の、ハムスターを飼育する思いや経験や研究成果を、 体系的・理論的に考え、まとめることが出来るようになりました。


 以下に、小菅正夫園長の言葉を、当時のホームページから引用させていただきます。

文中赤文字はホームページで太字部分

 実は,ずっと以前から,旭山動物園では環境エンリッチメントについて研究していました。
 動物が楽しく暮らすにはどうしたらいいかということです。
楽しく暮らすとは幸せな暮らしということです。
動物園の動物たちにとって何が一番辛いのかを考えました。
それは彼らに やることがない ことなのです。
やることをたくさん作って退屈せずに暮らせるようにすること・・・簡単に言えばこれが環境エンリッチメントです。
 旭山動物園ではすべての動物に対して環境エンリッチメントを施し,彼らが少しでも楽しく暮らしてくれるようにしてきました。
すると,彼らの行動に変化が出たのです。
何にでも興味を持ち,自らの意志で動き,いきいきとした活動が見えるようになったのです。
しかも,彼らの特徴的な行動や能力が発揮されるようになりました。


 ハムスターは、『地下型の巣箱』の中で、
@ 寝室に寝床を作る。
A 貯蔵室に食料を運びこんで貯め込む。
B トイレ室を決めてオシッコをする。
という3大習性を行動にして私たちに見せてくれます。

そして、寝床で安眠・熟睡できるハムスターは、精神的にとても安定することがわかりました。
すると、飼い主にとても興味を持ってくれるようになります。
これは、小菅園長の言う環境エンリッチメント効果なのだと思います。
ハムスターが楽しく暮らせる様に、ハムスターの飼育環境について、 皆様と一緒に考えることができたら楽しいと思います。


旭山動物園








〈旭山動物園〉革命の59ページ







旭山動物園小菅園長の著書をご紹介します。

〈旭山動物園〉革命  著者 小菅正夫 724円 角川書店
2008年4月24日 『地下型の巣箱』入澤二郎
 
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